吉田 鋼市の

​第2回 大丸心斎橋店本館

 大阪の大丸心斎橋店の本館が建て替えられて、2019年9月に開業した。前の建物は、ヴォーリズ建築事務所の設計、竹中工務店の施工により、1922年から1933年まで4期に分けて建てられたもので、その華やかで優しい姿は、この80数年間、御堂筋の顔の一つとなっていた。北館と南館がある故に本館と呼ばれているが、これがまさに大丸の本店でもある。それに、大丸がここに陣取ったのは300年前に遡るという非常に古い歴史が積み重ねられた場所でもある。それ故であろうか、建て替えられた新本館に、前の建物のファサードが保存された。1階の内装もよく保存されている。もちろん、建築学会などの保存要望書が出されたりはしたが、特段の容積加算などの特典を受けたわけではないようであるから、このファサード保存はやはりこの建物の歴史と顧客の願望の故であろう。三越日本橋本店、高島屋東京本店など、国の重要文化財となって保存活用されている例はあるものの、デパートの建物で一応きちんとイメージを踏襲しているのは少ない。同じヴォーリズ建築事務所設計の大丸京都店(1912年)もほぼ全面的に改装された外壁となっている。ファサード保存など保存の名に値しないという意見もあるだろうが、大丸心斎橋店は商業ビルの保存の例として汲むべきところがある。

 前の建物は鉄筋コンクリート造7階(一部8階か)建て地下2階だったが、新しい建物は鉄骨造11階建て地下3階。基本設計は日建設計で、実施設計・施工とも前の建物と同じ竹中工務店。ファサードは意匠を異にしている低層・中間層・上層の3層に分けられていたが、耐震性向上のために、その層の切れ目のところで目立たないようにスリットが入れられ、新しい建物の動きに合わせて3つの層が独自にスライドするようになっているという。そして新築部分の7階から11階までのファサードは、保存されたファサードから数メートルほど後方に下がったところに設けられている。その新しいファサードも、1・2階の特徴的な意匠に合わせて八星と正方形を組み合わせた幾何学的な造形となっている。一瞬、パリのアラブ世界研究所を想起したが、実際は全然違う。幾何学的・イスラム的な造形として同じだというだけであり、1階入り口周辺の造形や内装に呼応するところがあるかもしれない。下げられた新しいファサードの手前の屋上は、「7階心斎橋テラス」と名づけられて戸外のテラスとなっており、一部にはレストランの戸外テープルが置かれている。そのテラスのフェンスはガラスであり、外からはそれほど目立たない。ただし、かつての7階の上の屋上が新しい建物の7階になっており、昔の7階分が今の6階になっているわけである。当然、かつてのファサードの窓は新しい階とずれて生きていないことになる。

 そして、復元された内装。1階はかつてよりも広々としている感じを受けたが、7割程度は既存の内装部材を保存 利用して復元されたといい、天井飾りや照明やエレベーター扉廻りなど、あの華やかな感じはよく受け継がれている。親柱が印象的だった主階段はなくなったが、小さい方の階段は保存されている。

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御堂筋側の外観

よく見ると、保存されたファサードの屋上にガラスのフェンスが見える。

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北西隅外観

北側ファサードは保存壁面からそれほど引っ込んでいるわけではない。

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保存されたファサードの入り口部分

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保存されたファサードの屋上の「7階心斎橋テラス」 

正面に保存された塔屋(主としてこの塔屋の故にファサードが「ネオ・ゴシック」と評されることが多いようであるが、実際はあまりゴシック的ではない)、左側にガラスのフェンス、右側に新しいファサード。

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新しいファサードを内側から見たところ

八芒星と正方形を組合わせたデザイン。

復元保存された1階の内装。天井廻り。

ガラスのフェンス越しに保存ファサードの頂部を見たところ。

復元保存された1階の内装。エレベーター周辺。

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復元保存された階段の親柱

復元保存された1階の内装