吉田 鋼市の

​第3回 弘前れんが倉庫美術館

 弘前れんが倉庫美術館が2020年7月に開館した。所在地からつけられた吉野町煉瓦倉庫の名で知られた歴史的な倉庫を活用しようとする30年以上に及ぶ弘前市民の願いと努力が結実したものである。倉庫はL字型プランの煉瓦造2階建て(小屋組は木造と鉄骨造)の大きな倉庫と、別棟の煉瓦造平家(小屋組は木造)の小さな倉庫からなっていた。創建年は大きい方の倉庫が1923年、小さな方の倉庫が1907年とされ、いずれも、大工から酒造業に転じた酒造会社オーナー福島藤助(1871-1925)自身が建てたとされる。その後オーナーは変わっているが、1965年までは一貫して酒造工場として使われ、戦後はそこでリンゴ酒(シードル)がつくられていた。それ以降はわずかに米などの保管庫に使われていたが、やがて活用を求める市民の動きに伴って、美術展やコンサートなどのイベントに使われてきた。2015年に弘前市が当の土地と建物を買い、PFI事業として活用事業が行われ、その事業に参加した企業が美術館開設準備室をつくり、それが弘前芸術創造株式会社となってこの美術館を運営しているということである。

 改築の設計は、Atelier Tsuyoshi Tane ArchitectsとNTTファシリティーズで、施工はスターツCAM・大林組・南建設共同企業体。補強壁やブレースやバットレスなど付加的な部材がまったくないスマートな外観に驚いたが、既存の壁にPC鋼棒を差し込んで補強しているという。指定文化財の修復の場合には、当初部材と後補部材の区別が重要であるが、ここでは全体の統一性が優先されている。ちなみに、この美術館の建物は文化財としては指定も登録もされていないらしい。改築に際して、小さい方の倉庫は正面のファサードを残して建て直され、カフェ・ショップに使われている。その保存されたファサードと建て直された新しい煉瓦の部分も巧みに一体をなしているが、保存壁の隅の煉瓦が一部欠けているのがそのままにされている。時間のつくった造形を楽しませてくれる妙案とも言えるが、一種のパフォーマンスのような印象も与える。

 大きい方の倉庫が美術館となっているのだが、その入口が中世教会の入口によく見られる船底形のアーチ(アリエール・ブッシュールと呼ばれる)になっていて、その部分は煉瓦をずらしてジグザグに積んである。この積み方を「弘前積み」と称しているようだ。そして屋根。かつては鉄板葺きだったようだが、これがシードルの色にちなんだ黄金色(それを「シードル・ゴールド」と称している)のチタンの菱葺きに変えられている。開口部にはサッシもほとんど見えないようにしてまったくシンプルにガラスが入っており、窓の扉も撤去されたかと思っていたら、もともとある部分にはきちんと残されていた。空調機器も黒く塗られ、その前面には黒い板塀が置かれている。この改修は、学術的であるが故に時に無骨にならざるを得ない保存に対する美的な保存活用の提案かもしれない。そしてまた、これは時代を経た建物はそれだけで美的な素材になり得るということを示してくれてもいるのであろう。    

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正面外観。右側が美術館棟で、その奥が右側に折れてつながっている。左側がカフェ・ショップ棟。

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正面入口。ジグザグに積んだ煉瓦が人を迎え入れる。

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美術館棟の窓扉のある外観。足元には煉瓦破片が敷き詰められている。

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内部、受付の部分。2階床を支えている鉄骨の梁も当初のものらしい。

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木造トラスの小屋組。この下がライブラリーとなっている。

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美術館棟の屋根。「シードル・ゴールド」色のチタンの菱葺き。二つの塔屋は換気塔らしい。

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入口を内側から見たところ。写真の中央の展示作品は地元出身の奈良美智の「A to Z Memorial Dog」

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カフェ・ショップ棟の保存されたファサードの隅部分。崩れかけた煉瓦がそのままになっている。右側の壁面が新しい煉瓦で建て直した部分。

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階段。木製の手摺が独特の形をしている。

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建て直されたカフェ・ショップ棟の小屋組。