吉田 鋼市の

​第6回 新風館  

 京都の烏丸通りにある新風館が、2020年6月に再度のリニューアルによってホテルと店舗からなる施設に生まれ変わった。当初の建物は1926年に建てられた京都中央電話局で、設計は吉田鉄郎、施工は清水組。その後も長く京都電電ビルとして用いられていたが、1983年に京都市の登録文化財(国の登録文化財ではなく京都市の文化財保護条例に基づくもの) となり、2001年に保存改築されて新風館という名の商業施設となった。その名の通り、京都に新しい風をもたらそうというものである。その保存改築の時の設計はNTTファシリティーズとリチャード・ロジャース・パートナーシップ・ジャパン、施工は清水建設で、この改修はグッドデザイン賞とBELCA賞(ベストリフォーム部門)を受けているが、2016年に閉鎖された。中庭の広場では公共的なイベントがしばしば行われていたようであるが、わずかに15年ほどの命であった。もっとも、この時の改修は、当初から恒久的なものが意図されておらず、期間限定のものであったようである。

 というわけで、今回のリニューアル・オープンは満を持してのものだということになるが、新風館の名は引き継がれた。設計は同じくNTTファシリティーズで、デザイン監修が隈研吾建築都市設計事務所、施工は大林組。前回の改築部分は青や黄色の鮮やかな色に塗られた鉄骨が構造の主体をなし、新旧の対比を示すことが意図されていたように思うが、今回の主役は大量の杉の集成材。この集成材が中庭へと導くゲートとなり、既存の建物の中庭側にも新築のホテル側にも、それにホテルの内部にも盛んに使われ、その自然の木質の色が全体を支配している印象がある。それに応じて、かつてイベント広場でもあった中庭にも多くの植樹が施されて、起伏をもつ憩い得る庭園となっている。この集成材の組み合わせは、確かに斗栱のようでもあり、時にはガラス壁を貫いているかのようにも見え、たいへんダイナミックで圧倒されるが、構造として必要ではないかもしれないところにも置かれているような気さえする。なお、このホテルは米国で展開しているエース・ホテル(ace hotel)で、米国以外のホテルとしては、ロンドン(最近のコロナ禍でエース・ホテルは撤退したらしいが、他社のホテルとして存続しているという)、パナマに次ぐもので、もちろんアジア初とか。

 既存の建物の外壁の保存は、前回がいかにも修理といった感じの新旧の材料の混交だったが、今回は完璧な改修といった感じ。ファサードのほぼ全体に張られたタイルはほとんど取り換えられたともされているが、すべて新しいものにされたわけではないようで、古いものもかなり使われているようである。北側のアーチ型のエントランスも非常によく保存されており、なによりも人の活気にあふれている。残念なのは、既存の建物の2階と3階ともホテルのスペースで、宿泊者しか近づけないこと。オープンになっているのは中庭側に開いた1階の店舗部分だけで、既存の建物のファサードが閉じられた壁のようになってしまっている。

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烏丸通り側の外観(3階建て)。右側の背後に見えるのが新築のホテル(7階建て)で、その手前が集成材のゲート。

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烏丸通り側のゲート。屋根はまた別にかけられている。

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ホテル入り口。集成材のゲートが見られる。

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二連のクロスヴォールトがかかった北側の入り口。

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保存された建物の中庭側通路。鉄骨の支柱と集成材の共存。

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北側(姉小路通り側)の外観。窓間壁に様々なタイルの張り方が見られる。左にあるのが新築のホテル。

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北側のアーチ型の入り口。やはり古いタイルも使われているように見える。

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北側の入り口細部。よく保存されており、球形の止め石が中庭にも見られる。

中庭。左側と正面が保存された建物の裏面に相当。手前に球形の石が見られる。

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ホテルのロビー。随所に集成材が見られる。