吉田 鋼市の

​第22回 北九州市立戸畑図書館

 北九州市立戸畑図書館のオープンは2014年であるが、このもとの市役所を図書館にコンバージョンした建物は、2014年にグッドデザイン賞と耐震改修優秀建築表彰、2016年にBELCA賞、2019年に公共建築賞を受賞するなど、評価は非常に高い。

 創建は1933年で、戸畑市役所としてであった。鉄筋コンクリート造3階建て、地下1階。設計は福岡県営繕課で、施工は鴻池組。当時の福岡県営繕の課長は、その職を長年務めた薄與作(すすきよさく 1885-1972)。薄は福岡の生まれで福岡工業高校を経て1909年に名古屋高等工業を出ている。福岡県営繕は、この戸畑市役所竣工の3年後の1936年に大牟田市役所も設計しており、そのスタイルは戸畑市役所とよく似ている。ちなみに、大牟田市役所は2005年に国の登録文化財となったが解体の方針が出され、その後、反対の意見も強くなり、現在保存活用を含めて検討中という。

 戸畑市役所のその後だが、1963年に門司、小倉、若松、八幡、戸畑の5市が合併して北九州市となった後も、北九州市役所として使われた。当初は、新しい北九州市役所ができるまでの短期間の仮庁舎、的な位置づけであったが、なんと9年間も北九州市役所であった。小倉城そばに新しい市役所ができるのは1972年のことで、それ以降は北九州市戸畑区役所として用いられる。そして2007年に新区庁舎がすぐ近くに完成した後に、保存活用が検討され、2012年から工事に入って2014年に北九市立戸畑図書館となるに至ったというわけである。その保存活用のための改修工事の設計は、青木茂建築工房で構造設計が金箱構造設計事務所。施工は創建時と同じ鴻池組と、九鉄工業。ついでながら、それまでの戸畑図書館は1958年に建てられた鉄筋コンクリート造階建てのピロティをもつ建物(設計は日建設計)であったが、これは取り壊されたようだ。建物の保存には、単に新旧だけではなく様々な事情や感情が関与してくるようだ。

 母体が5倍になったわけだから、初代北九州市庁舎時代に当然さまざまな増築が行われ、周囲には分館のような施設が増設されたものと思われるが、図書館となるに際して、それらはきれいに片付けられたようで、いまは広い敷地に堂々と立っている。戸畑祇園大山笠の行事の観覧席の背後に埋もれたようになっている新しい区役所よりもいまなお威厳に満ちている。この建物の耐震改修は、大小の円形の穴が開けられたアーチのフレームが随所に設けられているのがみそらしいが、訪れた際は、運悪くコロナ対策で閉館中。残念ながら中に入れず、辛うじて廊下のアーチの耐震フレームをみることができただけだった。それでも、廊下のアーチはスマートで、以前からそこにあったかのごとく造形的になじんでいた。

 外観も非常によく保存改修されているが、裏面にT字型に張り出した部分を挟んで、左右にガラス張りの突出部が増築されているが、一方はエレベーター室で、もう一方は新設の階段室のようだ。機能が少し違う増築部がまったく左右対称に設けられているのは、オリジナルが左右対称だからであろうか。少し微笑ましい姿である。

正面外観。県庁舎のような堂々たる雰囲気。外壁はスクラッチタイル張り。

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外観細部。モニュメンタルな塔屋。少し神奈川県庁舎に似ているが、その原設計者、小尾嘉郎も名古屋高等工業の卒業。

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玄関入り口。入り口は開いているが、本の返却者のため。庇の持送りはオリジナルであるが、庇自体は取り換えられている。

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背面外観。突き出した部分の左右にガラス張りの増築部があるが、右がエレベーター室、左が新設の階段室。

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内部の廊下。下端をアーチにした耐震補強フレームがリズミカルに並ぶ。

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外壁細部。右がオリジナルのスクラッチタイルで、左奥が新しいスクラッチタイルと思われる。

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耐震補強アーチを支える鉄骨柱。

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内部の入り口部分。灰色の部分が新設の内装と思われる。2階の手摺りはガラス。

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耐震補強アーチ。大小の穴が穿ってあり、三角のリブも見られる。梁のハンチに呼応するような雰囲気。

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斜め後方からの外観。左側がT字型に張り出した部分