吉田 鋼市の

​第26回 香川県庁舎東館

 1958年の香川県庁の竣工は、日本のモダニズム建築史上における一つのメルクマールであった。日本の伝統的な木造建築の木組を想わせる繊細でシャープな梁の表現はモダニズム建築の到達点でもあり、新たな日本のモダニズム建築の先駆けでもあった。くわえて、地元の名産の石組みを伴った日本庭園を組み込むなど、後の県庁・市庁舎建築に大きな影響を与えることとなった。

設計は、言わずもがな丹下健三計画研究室。施工は大林組。ちなみに、2000年に西側に隣接して建てられた新しい県庁舎の設計も丹下健三・都市・建築設計研究所で、施工は大林組と間組。それ以降、この新しい県庁舎が本館となり、従来の県庁舎が東館と呼ばれることとなる。本館の西側にある県警察本部庁舎も、設計は同じく丹下健三・都市・建築設計研究所、施工は西松建設で、その竣工が1997年。この県庁舎と県警本部が陣取るブロックはつまりは丹下ワールドである。ただし、そのブロックの道路を挟んで南側にあり、4階の廊下で東館と連絡されている県議会議事堂(1987年)の設計は、地元の片山建築設計事務所で施工は大林組・小竹興業・富士建設。

 すぐそばに高層の新庁舎が建てられたのであるから、旧庁舎の解体が検討されるのが普通だが、香川県庁舎の場合にはまったくそのようなことはなかったようである。ただし、耐震性の補強が必要で、その方法が検討され、結局、免震レトロフィット工法が実施されている。その工事の完成が2019年12月。まるまる3年の改修工期であった。1958年の竣工時の工期が2年半であるから、新築の際よりも時間を要したことになる。その耐震改修工事の基本設計・工事監理は松田平田設計大阪事務所、実施設計と施工が大林・菅特定建設工事企業体ということになる。 

 免震装置にも、天然ゴムの支承や鉛プラグ挿入ゴムの支承や弾性すべり支承など多様な方法が組み合わされて躯体が構造的に一体化する工夫がされたという。そのおかげで、上部の躯体にはブレースなどの補強がまったく見られず、シャープなコンクリートの躯体の表現がよく保存されている。内部の柱や梁の型枠の木目もはっきりと見える。もっとも、塔屋の部分にはコンクリートの打ち増しが行われたというが、かつては県民の憩いの場でもあった塔屋部分はいまは近づけないので確かめられなかった。遠目には打ち増しはまったくわからない。ただし、バルコニーの手摺りは新しいものにとりかえられている。この手摺りは、当初はプレキャストコンクリート製であったようだが、鉄筋の露出も一部に見られ、軽量化を図るためもあっていまはGRC製(ガラス繊維強化セメント板)に取り換えられている。それで、いまの手摺りの目地はダミーということになる。

 ピロティ天井の木製ルーバーも多くが取り換えられているが、プレキャストコンクリートの手摺り、この木製ルーバーといい、鉄筋コンクリートのこの建物の保存が、木造建築の保存と同じような感じで行われていることに驚く。それは、この建物が木造の木組みを思わせるものであるためでもあろうが、矧木や接木や埋木のような木造建築の保存手法がコンクリートでも可能な気もしてくるのである。

1-1.jpg

南側外観。中央が東館高層棟、左側が本館、右側が東館低層棟。手前が南庭庭園で太鼓橋もある。

3-1.jpg

ピロティ部分。天井の木製ルーバーは多くが取り換えられているが、一部に既存の材料が使われている。

5-1.jpg

外観細部。手摺りはGRCによる新しい部材に取り換えられている。側面には疑似目地が施されているが、上面には見えない。遠目には見えないだけかもしれない。

10-1.jpg

基礎の免震装置。「天然ゴム系積層ゴム」と記されている。

9-1.jpg

ロビーの柱の型枠の木目。非常にはっきりしている。

2-1.jpg

南庭庭園と東館。奥がピロティのある東館低層棟。石組は庵治石によるものらしく、同じ石の石組は栗林公園にも見られる。

4-1.jpg

塔屋部分の外観。ここにコンクリートの打ち増しが行われているらしいが、慎重に実施されたのであろう、にわかにはわからない。

6-1.jpg

1階ロビー。建築屋には緊張感溢れる空間であるが、弁当を食べている人もいた。微笑ましい。

8-1.jpg

ロビーの下部細部。床は石張り。外壁の最下部もガラス。

7-1.jpg

ロビーの手摺り。以前は黒い色だったように記憶しているが、実に鮮やかな銀色をしているので、アルミに取り換えられたのかと思った。実はもとのスチールの再塗装であった。