吉田 鋼市

​第1回 東京都北区立中央図書館

 この東京都北区立中央図書館は、1919年に建てられた煉瓦造の工場に新しい施設を増築して図書館にしたものである。当初から煉瓦造で建てられた図書館ならいくつかあって、それぞれ由緒ある歴史的な図書館として知られているが、煉瓦造の工場を図書館に転用した例は珍しい。それもあって、この建物は「赤レンガ図書館」の名で親しまれているようで、館内に併設されている飲食店も「赤煉瓦カフェ」である。

 当初は陸軍の東京砲兵工廠銃砲製造所の「弾丸鉛身場」として建てられた。つまりは弾丸製造工場で、このあたり一帯には1905年、すでに多くの煉瓦造の建物からなる東京砲兵工廠銃砲製造所が建てられており、その一端にこの建物は増築されたわけである。戦後、接収を経て陸上自衛隊十条駐屯地となり、1990年代にそのほとんどの煉瓦造の施設が鉄筋コンクリート造に建てかえられる中で、関東大震災にも軽微な損傷で耐えた生き証人でもあったが故か、あるいは幸いにして敷地の隅のほうにあったが故か、この建物は保存され、その後、北区に移管され図書館となるに至ったわけである。実際、この建物は煉瓦造の洗練された完成期の姿を示しており、窓も非常に広く、図書館としても十分に明るい。創建当初、陸軍には多くの建築技術者がいたが、この建物の設計・施工は不詳。ついでながら、この東京砲兵工廠の南端に1930年に建てられた東京第一陸軍造兵廠(砲兵工廠の名は時代と共に何度か変わった)本部の建物が北区立中央公園文化センターとして保存活用されている。

 図書館としての開館は2008年。北区の中央図書館は以前から別のところにあったが、手狭になっていたようで、所を得てここに落ち着いたことになる。設計は佐藤総合企画で、施工は安藤建設・佐伯工務店・高橋建設。二連の切妻屋根をもつ長さ54メートル、幅27メートルの平家の煉瓦造に、階建ての鉄筋コンクリート造の建物を付け加えたわけだが、その組み合わせ方がユニークで、「違い釘抜紋」のように双方をずらして重ねている。それで、赤煉瓦のほうも南北西の三面の外壁が残されたわけだが、なんと残りの東面の大部分も館内の中心部に内壁として残されており、それが内部に強いインパクトを与えている。煉瓦造の内装はすっかり変えられており、外壁と鉄骨の柱とトラスだけがいわば骸骨のように保存されたわけだが、かつても工場あるいは後には倉庫として使われていたから、おそらくもともと内部はがらんどうだったであろう。だから、よく残されたといってよい。鉄骨の柱は刻印によると八幡製鉄所でつくられたものらしく、その一部の基礎もガラスの床の下に見えるようにされている。煉瓦も地元の北区や足立区でつくられたものだということが刻印からわかるという。

 増築された鉄筋コンクリート造の部分も、南側は住宅団地に面していて閉じられた雰囲気になっているが、基本的には太い柱を除いて多くはガラスで覆われており、それほど強い主張もすることなく、煉瓦造をやさしくカバーしている感じがする。公園に面した北側はまさによく開かれていて、とりわけ少し高く突出するガラスのエレベーター塔がモダンさと軽快さを表現している。

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北側外観。右奥にあるのが煉瓦造の部分。真ん中のガラスの箱はエレベーター塔。

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北側と西側の外観。柱に付けられた金具もそのまま残されている。

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西側外壁の樋。柱の窪みにぴったりと収められている。

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内部。鉄骨の格子(ラチス)柱。その上にトラスが見える。

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屋根を支えるトラス。このトラスはフィンクトラスらしい。

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北側外観。二連の切妻屋根の左側に飲食店があり、それが外のテラスとつながっている。

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南側外観。主要部分とは別に設けられた鉄筋コンクリート造の増築部分とガラスの通路でつながれている。

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内部。右側に見えるのが館内の煉瓦造の内壁。もともとは東側の外壁で、開口部の造作を除いてほとんどすべて残されている。

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鉄骨の格子(ラチス)柱の基礎。床下に煉瓦や金具が展示されているところもある。

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「赤煉瓦カフェ」。左側の窓と入り口が北端部。たいへんにぎわっている。