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吉田 鋼市

​第3回 浜松市鴨江アートセンター

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 かつての浜松市の中心的な警察署庁舎がアートセンターになって蘇った。もともとは1928年に建てられた浜松警察署であるが、後に浜松東警察署と浜松北警察署ができた後は浜松中央警察署であった。鉄筋コンクリート造3階建てであるが、戦前までは警察署が消防機能も兼ねていたこともあってか、6階建て相当の望楼のようなモニュメンタルな塔屋を備えていた。外観も左右対称でモニュメンタル。竣工時の新聞に「設計並に監督 静岡県庁建築係 工事請負 静岡 長谷川太平」とあるという。

 1971年の浜松中央警察の署移転に伴って、この建物は翌1972年に静岡県の所有から浜松市の所有となり、浜松市社会福祉会館として用いられるようになる。さらに1984年からは浜松市鴨江別館(鴨江はこの場所の地名)となっていたが、2001年に先述の望楼の塔屋が解体され、同時に建物全体にも解体の方針が出されたが、浜松市民の保存要望活動により存続が決まり、耐震補強改修工事を経て、2013年に鴨江アートセンターとなるに至っている。鴨江別館時代も、音楽練習場や貸会議室として使われており、アートとのかかわりはすでにあったわけだが、こんどは文字通り「創造都市・浜松の拠点的役割を担う公共文化施設」の「アーティスト・イン・レジデンス」つまり、アーティストが一定期間継続して活動する場所となったわけである。実際、完成作品が展示されている部屋もあったが、多くが制作中の状況であった。訪問者が制作中のアーティストと気軽に声をかわせるということになっているわけである。その耐震改修の設計は、静岡県建築士会西部ブロックまちづくり委員会が担当しており、保存活用運動にも同組織が積極的に関わったという。この建物のパンフレット『BEKKAN 浜松市鴨江別館』も同組織の 編集・刊行である。そして施工は、地元浜松の鈴木組。

 さて、その耐震改修ぶりであるが、非常に素直でオーソドックスなやり方。裏側のファサードのみならず正面のファサードの多くの窓に、鉄骨のブレースが施されているのが見えて、いかにも耐震補強をしたということが一目でわかる。率直にすぎるともいえるが、アートの制作現場をオープンにみてもらおうという場所でもあるから、このほうが正直でよいのかもしれない。この建物は当初は大部分の壁面に日華石タイルが張られていたが、1974年にタイルがはがされ、白い色のモルタル塗り仕上げとなっていた。それをこの時の耐震改修でタイルの色に近い黄土色のモルタル仕上げに変えられている。タイル時代への復元が意図されたのであろう。正面右端近くにあった通用門も長い間塞がれていたが、それも復元されている。つまり、内部も含めてこの改修は概ね復元的に行われている。ただし、望楼の塔屋は復元されず、かつてあったという正面の5本の大オーダーの柱頭飾りも復元されなかった。

 この地区の最大のモニュメントであったこの建物は、幸いにも保存活用されたわけだが、それに少し先駆ける2009年に、その真向いにあるかつての浜松銀行協会(1930年、設計は中村與資平、施工は大倉土木)の建物が、木下恵介記念館(映画監督木下は浜松出身)となっており、共に浜松市の施設として活用されている。

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正面外観。外壁の腰部は石張り。右隅に見えるのが復元された通用門。窓のブレースがよく見える。

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玄関ポーチ。三連のアーチと5本の大オーダーの柱は石張り。

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内部。小さな窓には三角形のブレースが加えられている。

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制作中と思われる作品。柱頭飾りのある円柱の間に作品がおさまっている。

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人研ぎ仕上げの階段の手摺り。

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背面側外観。やはり、随所にブレースが見られる。

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内部。開口部ごとにブレースが見られ、これらの大きな窓にはブレースは三角形二つからなる菱形。

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内部。間仕切り部分のブレース。

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階段。親柱は人研ぎ仕上げ。アーチの基部には曲面を連続させたグリグリの繰形が見られる。

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円柱の柱頭飾り。天井の周囲にも植物文様の装飾が見られる。

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