top of page

吉田 鋼市

​第9回 ONOMICHI U2 

(画像をクリックすると拡大画像がポップアップで表示されます)

 尾道は「映画の街」として知られているが、海と山にはさまれた坂の街というロケーションの良さに加えて、歴史を経た建物がたくさん残され古きよき景観が維持されていることもその理由であろう。時間の魅力を加えたそれらの建物の多くは伝統的な和風の住宅であるが、地元の観光マップには「ガウディハウス」と名付けられている住宅もあって驚いた。これも普通の和風の住宅であるが、敷地の高低に応じた凹凸がアクロバティックで華麗で、その名がつけられたようである。

 もともと尾道は、「尾道水道」と呼ばれる狭い海峡に面した海運の商都として栄えた街であったが、「瀬戸内しまなみ海道」の開通により陸路によっても四国と結ばれたことにより、「瀬戸内の十字路」とも称されることになった。それに応じて「しまなみ海道サイクリングロード」という長距離のサイクリングロードの起点となるに至った。そのサイクリストのための施設となることを兼ね、街の活性化も目標に設けられたのがこの施設「ONOMICHI U2」である。

 「ONOMICHI U2」の「U2」は、この建物が広島県営の2号上屋(うわや)であったことに因む。すなわち県営の護岸の2号倉庫で、鉄筋コンクリート造の平屋。建てられたのは1943年。戦時中である。1号上屋は鉄骨造だったらしいが解体された。2号と同形同大の3号上屋はいまも現役。設計はおそらく県の営繕であろうが、不詳。施工も不詳。保存活用された際の報道も、リノベーションに関わった建築家や施工会社は書かれているが、創建時の建築関係者には一切触れない。つまり、この建物はその由緒の知名度の故に保存活用されたのではない。あるいは、戦時中の希少な大規模倉庫の遺構であるという意識もあったかもしれないが、もっぱら機能を優先して建てられ、シンプルにひっそりたたずむ広大な倉庫を活用しない手はないといった発想であったであろうか。活用のアイデアは、2012年に県によって公募型プロポーザルに付され、それを勝ち得たのが福山市に拠点を置く海運・造船を基盤とした常石グループで、この倉庫などの活用のために同グループはTLB株式会社を尾道に設立し、その会社の傘下にこの「ONOMICHI U2」がある。オープンは2014年。

 サイクリングロードの起点の施設であるから、「ONOMICHI U2」は前面にサイクルショップがあり、後方に自転車ごと泊まれる「HOTEL CYCLE」という名のホテルがあり、その中間にカフェ・レストラン・バー・ベーカリー・ライフスタイルショップがある。リノベーションの設計は、広島に本拠を置く谷尻誠氏と吉田愛氏のSUPPOSE DESIGN OFFICE、施工は福山市の大和建設。そのリノベーションのやりかたであるが、表面はあまりいじらず、海風にさらされて時間を経た雰囲気をごく自然に保持している。建物の持ち主はいまでも県であるから当然とはいえ、「県営2号」という古い表示はそのままで、下のほうに「U2」というしゃれたロゴマークがつけられている。内部もあまり手が加えられていないが、ホテルの部分は鉄骨で2階が設けられている。倉庫の故にそれほど明るくはないが、非常に軽快でクールでスマートなリノベーションで、軽装でスピーディーに移動するサイクリストたちにはまさにピッタリの場所のように思える。 

1.JPG

東側外観。左の方が海。はげかかった「県営2号」の表示はそのまま。右隅の柱にチョコレート色の表示板がつけてある。

2.JPG

海側のファサード。出入り口の部分にはシンプルなポーチが設けられている。

3.JPG

護岸と海側のデッキ。数十センチの高さのこのデッキは新設されたもの。後方に3号上屋が見え、船も泊っている。

5.JPG

内部。入り口部分のサイクルショップ。

7.JPG

内部。柱梁は華奢で、ところどころに明り取りのトップライトがある。

9.JPG

ホテルの2階部分の見上げ。天井も塗装されていない。

4.JPG

陸側のファサード。貨物の搬入のための深い庇がある。

6.JPG

内部。レストランとバーの部分。

8.JPG

ホテル部分。右側にフロントがあり、階段の左右に部屋が設けられている。

10.JPG

ホテルの客室のそばに置かれた自転車。

bottom of page