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吉田 鋼市

​第18回 GEA

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 山形県寒河江市のJR寒河江駅近くにこのGEAという施設はある。GEAはギアと読み、歯車のことで、なんらかの力の伝達・推進装置であることを意味する。東西に並んで立つ2棟の木骨石造からなり、1棟は梁間9.6メートル、桁行45メートルの2階建て。もう1棟は梁間10.9メートル、桁行33メートルの平屋。それぞれ「佐藤繊維旧紡績工場西棟」「佐藤繊維旧紡績工場東棟」として、2018年に国の登録文化財になっている。

 つまり、この2棟の建物は、もともとは1932年創業の紡績・ニットメーカーである佐藤繊維の紡績工場であった。ただし、当地に新築されたのではなく他の場所から順次移築されたものである。まず1949年に東棟が、そして1952年に西棟が移築。創建はいずれも1934年頃とされている。もともとは山形市山寺の酒蔵であったともされるが不詳。「十四代」で知られ、「銘酒天国やまがた」を標榜する山形であれば、大いにあり得る。同様な石蔵は小樽の例が名高いが、山形にも似たような石蔵はあったらしいし、現に同様な石蔵が山形市に寄贈されて「gura」(「蔵」と人を「グラッ」と驚かせる様を合わせたものらしい)という名のにぎわい施設として2018年にオープンしたという。

 かつて工場として稼働していた2棟の石蔵がGEAに変身したのが2015年。西棟を自社のオリジナル作品を含む最新のファッションを販売する「GEA1」として、東棟を国内外のおしゃれな日用品を販売する「GEA2」と、「レストランGEA0053」と「和食処 弦円庵」が入る「GEA3」に改装したのである。ちなみに、レストランの名の「0053」は当地の郵便番号991-0053に基づく。まさに佐藤繊維の、ひいては寒河江の推進ギアたらんとしたのである。改修設計は東京の平山学氏が率いるスペースデザイン事務所タイプセブン、施工は地元寒河江の布施建設。そして施主が佐藤繊維の当主、佐藤正樹氏ということになる。佐藤繊維の本社はいまもGEAの隣地にあり、寒河江市内には他の工場もある。同時に東京・大阪にも事務所や出張所を設けている。

 さて、この2棟の建物、外壁は全面石積みで、いかにも重厚そうに思えるが、意外と軽快・スマートでしっとりと風景に溶け込んでいる。もっとも、訪れた時は生憎の降雪で、あまり周囲をうろうろできなかった。石は大谷石と同じような凝灰岩で白く、所々に褐色の斑が入っている。2段の石を迫り出して積んで軒廻りに繰形を設けている(これを鉢巻という)。小屋組は木造のキングポストトラス。屋根は切妻で鋼板葺き。改修により、多くの窓は1枚ガラスのめ殺しとなり、出入り口は鋼製の扉となったが、外観の旧状は保たれている。 内部もまた、鉄骨で補強され、新しい階段が設けられ、ガラスの仕切り壁などが新設されているが、オリジナルの木造の細部なども保存されている。

 なかでも驚いたのが「GEA1」でファッション品を、かつて紡績に用いられていた機械や台の上に置いていることで、ここにはかつてここが紡績工場であったことを示す道具立てがあり、その重さと古さが最新の軽快なファッションと不思議なコラボレーションを発揮しているのである。たしかに、ここは寒河江のギアたり得ている。

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全景。右が西棟で「GEA1」、左が東棟で「GEA2」と「GEA3」。

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「レストランGEA0053」の入り口。手前の窓の扉にも歯車が見られる。

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おしゃれな日用品を販売する「GEA2」の内部。

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「GEA1」の2階。ガラスのパーティションが設けられている。

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「GEA2」の入り口。左の扉に歯車が描いてあり、扉の上にも歯車がとりつけられている。

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「レストランGEA0053」の内部。

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「GEA1」の新しく設けられた階段。左右に木材の梁が残されている。

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「GEA1」の内部に保存されている紡績機。

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「GEA1」の内部。保存された木材の梁の端部。

「GEA1」の内部。機械の台の上のファッション品。

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