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吉田 鋼市

​第20回 茨城県立図書館

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 水戸市三の丸にある茨城県立図書館は、珍しくもかつての県議会議事堂を図書館に改装転用したものである。弘道館公園のわきに、1930年創建の前の茨城県庁本庁舎(現・茨城県庁三の丸庁舎)と少し離れてはいるが南北に並んで立っており、てっきり県庁本庁舎と同じ時期に建てられたものと思っていたが、こちらのほうは単純な箱型でまったくモダン。1970年の創建になるという。鉄筋コンクリート造3階建てで、地下1階。設計は茨城県と日建設計、施工は竹中工務店。昔の県庁舎は、議事堂も同じ建物の中にあることが多かった。県庁舎の竣工から40年を経て、議会はようやく独立した場所を得たわけだが、それだけにこの建物の議員や県民にとっての意味は大きかったであろう。しかし、1999年には新しい県庁舎と議会棟がかなり離れた敷地を得て建てられ、双方ともに移転。この議事堂の活用が図られ、図書館となるに至ったというわけである。

 県政にとって重要な施設であるから、図書館へのコンバージョンは、「議事堂としての記憶」を残し「空間の原型」を残すことを目標に行われたという。改修の設計は同じく茨城県と日建設計、施工は竹中工務店と昭和建設で、図書館として開館したのが2001年。細かく間仕切られていた議員控室群が広い開架書庫と閲覧室に変えられたらしいが、中心を貫く2階の議場に至るエントランスホールの階段室もそのままだし、階段席のある広い議場も、そのまま閲覧室・視聴覚ホールになっている。耐震補強も、地下1階の壁厚を打ち増しただけで大丈夫だったらしく、その地下階は、首尾よく閉架の書庫となっている。かつて議場であった閲覧室は対面ではなく、前方の人の頭と背を見ながら本を見ることになり、多少は異色の雰囲気にとまどうぐらいで、建物としてもどこをどのように改修したかが、いま見てもよくわからない。つまり、ここまでは改変の少ない理想的なコンバージョンとなったかもしれない。

 しかし、2021年、階段室のある正面の吹き抜けの空間に星乃珈琲店が進出した。県による公開プロポーザルに応募して選出されたものである。これにより、エントランスホールの広大なスペースの大部分が珈琲店になり、図書館のカウンターは一方の隅に追いやられることになった。反対側の隅は珈琲店のカウンターで、なんだかそちらの方がにぎわっているようにも見える。内装もこれに応じて白くクールなものから、褐色で重厚なものになった。加えて、アーチの窓列とアーチの書架列が加わった。これらの改装の設計は、日本レストランシステムとNowhere-Designs(ノウウェアデザイン)とambos(アンボス)で、施工は昭和建設。星乃珈琲は日本レストランシステムの系列下の会社である。

 さて、この二度目の改装をどう見るか。公共図書館にも昔から食堂はあったし、最近はその運営を書店が担ったりするなど、図書館も大いに変わりつつある。あの独特の紙のにおいに変わってコーヒーの匂いのほうがよいという人もいるかもしれない。それでもなお、こうしてど真ん中にカフェが入ってくると、どちらが主役なのか疑わしくなってくる。実際、建物の正面には図書館と星乃珈琲の両方のロゴが記されているが、側面には星乃珈琲のものしかないのである。

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正面外観。「茨城県立図書館」の表示の上に、星乃珈琲店のロゴがある。

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側面の隅のロゴは星乃珈琲店のみ。

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階段から入り口を見たところ。奥の右側が珈琲店のカウンターで、左側が図書館のカウンター。

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トップライトの吹き抜けのエントランスホール。

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もとの議場を閲覧室・視聴覚ホールにしたもの。

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全体外観。この側面の左の方に県庁三の丸庁舎がある。

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吹き抜けのエントランスホール。アーチの書棚の周囲は鏡張り。鯉のぼりは時節ものの飾り。

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左手前が図書館のカウンターで、奥が珈琲店のカウンター。

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珈琲店。右に見えるのが図書館のカウンター。ブロンズの彫像は議事堂時代のものという。

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開架書庫と窓際の閲覧室。

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