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吉田 鋼市

​第23回 太田アートガーデン

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 群馬県太田市にあるかつての木造2階建ての商店・住宅がアートの展示場となった。それがこの「太田アートガーデン」(略称はOAG)で、東武伊勢崎線の韮川駅前にある。オープンは2019年。「ガーデン」と名づけられていることから想像されるように、主屋のみならず庭のあちこちにある蔵も展示スペースとなっている。蔵はもともと4つあったらしいが、小さめの1つが取り壊され、大きな3つが保存もしくは保修された。そして、その3つの蔵は、吹き放ちの下屋のような空間で結ばれていて、相互につながりのある場所となっている。

 もともとは米穀・肥料店兼住宅であった。主屋は1938年の創建になるもののようであるが、少し奥に別棟で増築されている部分は戦後の建物と考えられ、それぞれの蔵の創建年も不詳。設計・施工も不詳。この主屋2棟と、米穀店であったからつまりは米蔵ということになる3つの蔵がアートの展示スペースとなったわけである。

 駅前の通りに面して設けられていた店舗のシャッターのついたファサードも撤去され、そのかわりにわきにゲート的な働きをするスペースと下屋が設けられている。敷地の側面を区切るブロック塀も木製の柵に変えられ、いくつかの付属屋も撤去されるなど、緑のある非常に開放的な「ガーデン」となった。しかもこれらはすべて無料の展示場で、常時開場しているわけではないようであるが、誰でもすぐに入れる。訪れた際も、平日にもかかわらず5~6人の訪問者があった。

 この「ガーデン」のオーナーはデザイナーの中村政久氏で、この店舗はご両親の店であり、氏自身の生まれ育った家でもあった。年齢や仕事の区切りもあってか、氏はこの生家をアート・ギャラリーとすることにし、改修の設計を慶応大学のホルヘ・アルマザン准教授の研究室に依頼。施工は群馬ケーアイ。展示されている作品は、中村氏自身の作品かもしくは氏が関わられた仕事のみのようで、他のアーティストに貸すギャリーでもない。また展示即売会でもなく、個展に近い発表会のようでもある。アートのある空間をゆっくり自由に散歩して欲しいという願いなのであろう。

 特段に特徴のある建物でもないし、この程度の古さの商店・住宅はたくさんあるに違いない。しかし、代替わりとともに取り壊さずに、その時間の重なりにアートを加えてもう一つの異なる空間にするという企図はなかなかできるものでもない。辛辣にいえば、お金に余裕のあるアーティスト・趣味人の道楽といえなくもないが、中村氏自身は「故郷に付加価値をつけたい」と言っておられるようだ。主屋の内部はよく保存されているようであるが、屋根が葺き替えられ、外観も新しくなり過ぎた感もなきにしもあらず。しかし、これも現実に使っていくのであるから当然ともいえる。他の人の作品も展示することも企画されているというし、それにずっと無料で開館以来4年も機能し続けているのは希有のことであろう。

 蛇足のようなものになるが、韮川駅の開設は韮川村時代の1932年で、この建物の創建が1938年。韮川村が太田町に吸収合併されるのが1940年で、太田町が太田市になるのが1948年。つまり、このアートガーデンは韮川村時代の繁栄の希少な生き残りでもあるということになる。

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駅前通り側の全体外観。主屋のすぐ奥の建物は戦後のもので、右端奥に見えるのが、最も古いと思われる蔵。

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芝地のガーデン。中央に見えるのが主屋に最も近い蔵で、壁が取り払われている。

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主屋の土間部分。様々な作品が展示されている。

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下屋部分の奥の蔵で、主たる展示物はここにある。構造材が露わにされている。

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最も奥の蔵で、アーティストの書斎もしくはスタジオのような雰囲気。

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主屋外観。少しモダンになり過ぎたか。

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最も奥の蔵。車も自転車も展示品のようにも見える。

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3つの蔵を取り結ぶ下屋部分。非常に重要な働きをしているように見える。

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蔵の入り口部分から下屋部分を見たところ。

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壁が取り払われた最も手前の蔵。たまたま撮影時には展示物はなかった。

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